2018年5月27日に名古屋で開催されたレイチェル・カーソンのつどい2018記念講演の記録です。
カーソンは「この地球は人間だけの世界ではない。動物も植物もみんないっしょにすんでいるのだ」として私たちに「いのちの言葉」を残しました。“つどい”では、上遠会長と高村名大教授に「カーソンの伝えたかったこと」と、今日の世界的課題「世界は再生エネルギーの時代に向かう」についてご講演をいただきました。
資料と一部の記録はここ

鳥の渡り、潮の満ち干、春を待つ固い蕾のなかには、それ自体の美しさと同時に、象徴的な美と神秘がかくされています。自然がくりかえすリフレインー夜の次に朝が来て、冬が去れば春になるという確かさーそのなかには、かぎりなくわたしたちをいやしてくれるなにかがあるのです。」と言っています。
(高村ゆかり先生講演)
(司会)
「再生可能エネルギーの時代に向かう」ご講演をいただく、国際環境法がご専門の名大教授、高村先生をご紹介します。
(高村先生)
温暖化ガスの排出は90%以上エネルギーに起因している。エネルギーと温暖化は密接な関係にある。(福島の事故がきっかけに)2015年あたりからエネルギーを取り巻く世界が大きく変わってきた。カーソンも指摘しているが、20世紀は科学技術が進展しまた問題も起こしてきた大量生産大量消費社会だった。換言すると化石燃料を使い豊かになった時代である。一方で、生じた問題を解決できなかった世紀でもあった。このことを反映して国は、地球の限界を示したプラネタリーバウンダリの考え方を取り入れるようになってきた。つまり、環境と経済は密接な関係にあるが、経済は環境の基盤がないと崩壊してしまうということを国の計画に書くようになった。
(p3p5)世界の最終エネルギー消費(電気、ガス、車、熱などすべて)において、再エネは計20%である。原子力は2%に過ぎない。ただし、再エネ20%のうち伝統的バイオマス(薪、炭)が9%あり今で言う新再エネは10%程度である。すなわち今でも80%は化石燃料に依存している。
(p5)電気だけで見ると1/4は再エネになっている。中国の電力は1/4が再エネになった。ただし、まだ水力が大きい。新しい大規模水力は地元に負担を与えることもあり注意が必要。
世界では(近年横ばいにはなってきたものの)年2%のペースで最終利用エネルギーが増えている。中でも再エネは急激に増えている。
(p6)発電設備で見ると、再エネ大国は中国である。風力だけでアメリカ全再エネよりも多い。今や再エネは中国とアメリカが中心になっている。
(p10)再エネはあてにならないと言う。でも、デンマークは風力だけで40%まかなっている。工夫すれば利用を増やすことができる。技術をうまく使うとできる。
(p11) 2015年がエネルギー転換期。新規発電設備の半分以上が再エネになった。発電インフラが変わってきた。理由は再エネ導入費用が下がってきたからだ。(新規導入量グラフが上下を繰り返すのは、コスト減を反映している。)
再エネ投資は増大してきている。いい循環ができてきた。
(p16)理由はどの再エネコストも火力と同じ程度になってきた。特に太陽光が劇的に下がった。
太陽光は場所を選ばない。どこでも光があれば発電できる。その太陽光のコストが5年で1/2に、火力のコストと同じになってきた。風力も下がった。特に洋上風力のコストが下がった。(p19)大気汚染対策を考慮すると再エネはさらに使いやすい。
(p20)太陽光のコストは日本はアメリカと並んで高い。中国の2倍。工事費、送電線接続工事費が押し上げている。日本はコストを下げる工夫が必要。
(p21)何故中国は増えているのか?再エネコストが下がっているからだ。アメリカはトランプが石炭を使うと言っている。しかし、国内ではシェールガスが安いので国内では使わず余った石炭を東南アジア、ポーランドへ売っている。
(p22)日本ではどうか?まだ再エネは石炭より高い。増やすには政策的工夫がいる。化石燃料使用の負の部分、温室ガス対策、大気汚染対策などの費用をコストに反映させる必要がある。そうしないと転換が進まない。
(p23) 2014年から2016年にかけて世界の消費エネルギー総量は増えていないが、経済成長は年平均3%はある。省エネ再エネ転換の結果を反映し温暖化ガス排出量は横ばいになった。
(p24)日本は原発事故の影響があったが、今は再エネ、省エネの効果が出ている。
(p26)これはいいことだ。雇用増加の面である。途上国ではエネルギーアクセス向上、大気汚染対策など社会の仕組み在り方を変える効果がある。
中国は今や世界最大の再エネインフラ持っている。大気汚染対策と経済戦略、雇用増のためでもあるが、それは他の国も同じだ。
(p29)日本はどうか。事故前は再エネ1%程度だったが、2015年には7.5%になっている。それでも他国に比して低い。ドイツでは電気で30%が再エネになっている。
(p41)ZEVは北米、中国、欧州で導入が進む。ZEVはバッテリがあり、家庭での太陽光で余った電気を車で蓄電するなど再エネの仕組みに新しい効果を生んでいる。
ビジネスにも変化がでてきた。
(p57)RE100(再エネ100%)に世界で132社が約束している。日本も6社。
(p59)企業の再エネ調達が拡大してきた。これまで、電気を選んでこなかったが、選ぶようになってきた。
(p63)地域の状況も変わってきた。九電では需要のピークの66%が再エネで賄うようになった。工夫すればできる。
今エネ庁ではエネルギー基本計画改正案のパブコメ中である。
2030年までに再エネを日本の主力電源にすることを目指す。自給率を上げ、地域の雇用を増やし、コストも下がっていることを背景に再エネを増やしていく方向性が書かれている。
再エネは地域に根差して育っていく必要がある。導入すればいい、というわけではない。科学技術をうまく使っていくことが大切で地域のなかでうまく育てていかねばならない。
(拍手)
(司会)
高村先生、ありがとうございました。
それでは、東海フォーラム代表伊藤から閉会の挨拶をいただきます。
閉会挨拶 東海フォーラム会長 伊藤容子 司会 関西フォーラム 原強
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