2021/12/04 レイチェル・カーソン日本協会東海フォーラムによる「2021なごや環境大学共育講座」が開講されました。なごや国際センターに於いて、密を防ぐなど十分な感染対策を講じた上での開催です。
2021後期講座第4回のテーマは「アスベスト問題などの現状と課題」です。
後期講座はこれまで、★公害資料館のネットワークと協働、★東海市における降下ばいじん、★水俣病の世紀と今日の課題、と今も行政上で残され今後も忘れてはならない課題を挙げてきました。
今回のテーマ「アスベスト」は行政がしっかりしないと、今後更に被害者が増える可能性が強い恐ろしいテーマです。従って、名古屋市で直接これらの課題に日々対応している環境局大気環境対策課職員の菱井さんと竹内さんに「アスベスト問題などの現状と課題」としてお話をいただきました。
実は東海フォーラム代表伊藤は、学校の空調工事の際のアスベスト飛散問題に直面したことをキッカケに、国のアスベスト行政の遅れにストレスを感じており、事務局の加藤は親類の中皮腫による死亡というショッキングな出来事に遭っていました。

さて講師の菱井さんのお話は現在の名古屋市の大気汚染の状況から始まりました。
【当日使用された資料スライドは以下クリックしてください。また〇の数字はナンバーです】
⑤大気汚染常時監視結果経年変化
➡PM2.5は、測定開始の2011以降、改善傾向にあり現在は環境基準をクリアしている。
理由として、中国からの越境汚染の減少と自動車排ガス規制の効果が挙げられる。名古屋地域の気塊解析の結果は、大陸経由が73%非経由27%となっており中国における改善が日本にも良い影響を及ぼしている可能性が強い。
➇⑨光化学オキシダント
➡改善傾向が進む大気汚染であるが、光化学オキシダントだけは測定17全地点で環境基準非達成となっており、しかもR12予測年平均値シミュレーション結果でも増加予測になっている。理由は温暖化による気象条件変化などが推定されるが不明である。
⑩新型コロナウィルス感染症蔓延が大気汚染に与える影響
➡PM2.5の月別変化を見ると、その減少に新型コロナウィルス感染症蔓延による社会活動の変化及び中国の影響低下が現れている。
名古屋、日本の大気汚染も中国次第であることに驚きつつ、菱井さんの話はここからが本論「アスベスト問題の現状と課題」に入る。
⑬アスベストとは
➡・鉱物繊維で熱、摩擦、薬品に強く安価で「魔法の鉱物」と呼ばれた。
・主に建材としてS30頃から工場、ビルに広く使われたが現在は製造、使用が禁止。
・吸入ずることにより中皮腫や肺がんを起こす可能性。
⑭アスベストの種類
➡色によって3色に分け青、茶、白があり発がん性は青が最も強く次に茶、白と弱くなる。
⑮用途
➡耐熱(エンジン)、耐摩耗(ブレーキ)、耐火断熱(吹付材、建築材)
⑯アスベスト輸入量の推移
➡戦後の輸入量(推計)は約1,000万トンでありうち800万トンが建設材料として利用してきた。
2004使用原則禁止になり輸入は激減、現在ではほぼ無くなった。
⑰健康被害
➡吸入すると、肺の組織内に沈着する。発症までの潜伏期間が長く「静かな時限爆弾」と言われてきた。
⑱規制法令
➡大気汚染防止法、労安法石綿予防規則、建設リサイクル法、廃棄物処理法、建築基準法
⑲⑳㉑使用規制の流れ、クボタショック
➡2005尼崎のクボタ工場で従業員、周辺住民にアスベスト関連疾患が多発していることが報道され社会問題化。2006健康被害救済法が施行、クボタが周辺被害住民に救済金支払いを発表。
㉒建設アスベスト訴訟
➡2008被害者と家族が、国に対して規制権限不行使を、建材メーカーに警告表示義務違反を訴え2021原告勝訴。
など、さまざまな経過を辿ったが、今も次のような問題が出ては消えして課題は残っている
㉓アスベスト含有珪藻土製品流通問題
➡2020アスベスト含有珪藻土製品(バスマット、コースター)の流通とメーカー回収。
菱井さんは、そして現在の最大の課題は、今後ピークを迎えるアスベスト含有建築物解体作業によるアスベスト飛散問題であると言う。
㉔㉕㉖㉗㉘㉙㉚㉛㉜
➡民間建築物の年度別解体棟数は、2015〜2030に1.7倍に増えると予想されている。解体時のアスベスト飛散に対して大気汚染防止法による規制の強化と対応する行政のモニタリング、指導強化がなされている。
・解体のピークは2028頃になり、白い爆弾と言われるアスベスト関連疾病の顕在化は更に進んでくると予想され、また大規模地震発生時の緊急時対応も心配されている。

ここで講師は竹内さんへ交替。竹内さんからは、今後もっとも心配されている建築物解体について具体的に説明を受けた。
㉞㉟アスベストが建築物に使われてきた背景
➡防火、耐火の観点から使われた。一般住宅にも耐火箇所に使われている。
㊱㊲㊳含有建材の種類
・レベル1吹付石綿(飛散◎)
・レベル2断熱材、保温材(飛散〇)
・レベル3アスベスト含有成形版・仕上げ塗材(飛散△)
㊴アスベスト使用建材全面禁止
➡2006・9月からアスベスト使用建材が全面禁止になっている。
㊵㊶㊷解体時のアスベスト飛散対策のため大気汚染防止法の規制あり
➡事前調査、作業基準が定められている。
レベル1,レベル2を含むアスベスト建材の解体改修を行う場合、事前に保健所へ届出が必要。
㊹㊺作業基準
➡レベル1、2の建材を処理する場合の厳しい作業基準が定められている。また、石綿成形板などのレベル3建材についても手ばらし作業などの作業基準が定められている。
㊻立ち入り検査
➡保健所では「事前調査」「作業基準」が適切に実施されているのかを立ち入り検査により確認している。
菱井さん竹内さんの講義が終了後、身近な健康に関する話題であったため、活発な質疑応答があった。以下代表的な2問を
Q:解体時に生じる吹付アスベスト廃棄物の処分方法は?
A:特別管理産業廃棄物「廃石綿等」として収集、運搬、処分等の基準が定められており、その基準に基づいて処理されるが最終的に基準に基づいて埋め立て処分になることが多い。
Q:水道管にアスベストが使われているようだが、飲み水にアスベストが混入しないのか?
A:アスベストは肺に入ると中皮腫、肺がんなどの健康被害がでるが、水道管の場合は仮に飲み水に微量アスベストが混入しても、心配はない。
いずれにしても、アスベスト被害はこれから本格的に健康被害が顕在化してくる可能性が高い。終わった過去の健康被害ではない。
レイチェル・カーソン東海フォーラムはこれからもアスベスト問題は取り上げ議論していきます。行政の最前線の大気環境対策課のみなさんの活躍にも期待したい。
さて今期講座もこれで終了です。
2022前期講座は、★13歳からのレイチェル・カーソンを読む、★なごやの水生生物多様性、★藤前干潟の現状と展望、★SDGsカードゲームで開く未来、などを企画しています。
みなさま、良いお年を!
来年もどうぞよろしくお願いします。
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